クールな次期社長の甘い密約
戸惑う私の肩を叩き、専務が立ち上がる。
「俺の祖父の事だ。津島物産の会長だよ」
「へっ?」
会長だなんて、そんなの聞いてないよ……
でもだからと言って帰るワケにもいかない。二人の後に続き座敷を出て日の光が差し込む明るい廊下を歩き出す。すると社長が振り向き、小声で話し出した。
「父は心臓と足を悪くして一年前から寝たきりの状態なんですよ。しかし、頭の方はしっかりしているからね」
聞けば、会長は現在、九十二歳で、今でも会社の経営に関わっているそうだ。
「年も年だし、そろそろ引退してゆっくりしてくれればいいんだが、本人がまだやる気満々でね……全く、困った人だ」
苦笑いを浮かべた社長が立ち止まり障子を開けると白髪の老人が大きなベットの上で体を起こして美味しそうにシュークリームを食べていた。
その姿が妙に可愛くてつい顔が綻んでしまったが、会長が眼光鋭くギロリとこちらを睨むから思わず目を逸らしてしまった。
ヤバい……怒らせちゃったかな?
「父さん、この方が貴志の婚約者の大沢茉耶さんだよ」
「大沢……茉耶?」
口のまわりにカスタードクリームを付けた会長が眉間に深いシワを寄せ、身を乗り出して私の顔を覗き込む。
「は、はい。初めまして……大沢茉耶と申します」
慌てて挨拶をすると会長の手から食べ掛けのシュークリームがポトリと転げ落ちた。
「あぁ……君が、大沢茉耶さんか……」