クールな次期社長の甘い密約
良からぬ妄想が頭の中を駆け巡り、恐怖で震え上がっていると車が徐々にスピードを落とし路肩に停車した。
人里離れた寂しい場所に連れて行かれるのかと思っていたのに、車窓から見える景色は多くの人が行き交う賑やかな繁華街。
ここは……どこ?
鼻先までずり落ちた眼鏡を掛け直し、探る様に辺りを見渡していたら、男性がいきなり後部座席のドアを開ける。
「降りて下さい」
彼の一言で、一気に血の気が引いていく。身の危険を感じた私は車のドアにしがみ付き、必死の抵抗を試みた。
「お、お願いです……見逃して下さい」
「見逃す?」
「私は受付なんか希望してませんでした。本当です。信じて下さい」
けれど男性は、問答無用とばかりに私を車から引きずり出すと目の前のビルに入っていく。まだ真新しいビルの階段を上がり、木製のお洒落なドアを男性が押すと、そこは――……
「えっ、美容院?」
「ここは、専務行きつけのヘアーサロンです。店側に無理を言って予約を入れてもらったので時間がありません。」
「えっと、よく分からないのですが……私は、なぜここに来たのでしょうか?」
「ヘアーサロンに来たのですから、やる事は決まっていると思いますが?」
「そ、それは分かります。私が知りたいのは、どうしてここに連れて来られたかって事です」
勇気を振り絞り最大の謎を口にすると、男性は淡々とした口調で言う。
「専務があなたをなんとかしろと私に命令したので、なんとかしに来たのです。あなたにはここで、人並の容姿になってもらいます」
ひと……なみ?