クールな次期社長の甘い密約
「父は母と別れてすぐ、お見合いをして結婚していました。しかし、その女性との間には子供がなかなか出来ず、このままでは津島物産を継ぐ者が居なくなると心配した会長が、唯一の孫である私に白羽の矢を立てたというワケです」
つまり倉田さんのお母さんは、一度ならずも二度までも、大切な人を奪われたって事だ。お母さんの気持ちを考えると胸が痛くなる。
「あの会長がそんな酷い事をする人だったなんて……信じられない」
「会長も必死だったのでしょう。しかし、幼い私には大人の事情など理解出来ず、母と引き離された悲しみで周りの大人に心を開く事はなかったんです。でも、一人だけ、私が心を許した人が居ました」
それは、社長の妻、君華さんだった。君華さんは倉田さんをまるで我が子の様に可愛がってくれたそうだ。
「子供が出来ないという事だけでも辛いのに、夫の昔の彼女の子供を育てなければならない。普通なら耐えられない事です。でも、君華さんは文句一つ言わず、私を可愛がってくれました」
しかし、やっと倉田さんが津島家に馴染んできた頃、その君華さんが妊娠した。生まれたのは男の子。その瞬間、倉田さんは厄介者になってしまったんだ。
「生まれた男の子が専務なのですね」
「えぇ、そうです」
専務が産まれると今まで優しかった親戚の人達が態度を一変させ、口を揃えて跡取りは本妻の息子である専務にすべき、倉田さんを実母の元に返せと言い出した。
会長もそうしろと言ったそうだが、倉田さんを返す事に大反対した人が居た――
それは、社長と君華さんだった……