クールな次期社長の甘い密約

「いえいえ、私どもは、津島家に茉耶さんが来てくれるというだけで嬉しいのですよ。特に私の父は感激してまして、結婚式までにはどんな事があっても退院すると嫌いな病院食を我慢して食べてますよ」

「そうですか。ただ、茉耶に津島物産の社長の妻が務まるか心配で……」


父親の言葉に社長が苦笑いすると専務の箸が一瞬止まった。


「いや、まだ貴志が社長と決まったワケでは……役員や大株主の意見もありますし、まぁでも、最終的には会長である父が判断する事になるでしょうが……」


専務は黙って社長の話しを聞いていた。でも社長を見つめるその目は、野望に満ちた挑戦的な目だった。


それぞれの思惑が入り混じった初顔合わせだったが、表面上は終始和やかな雰囲気だった。それから一時間後、両家の顔合わせの宴は無事お開きになる。


社長と私の家族は談笑しながら部屋を出て行き、その後に続き私と専務も部屋を出ようとしたんだけど、急に立ち止まった専務がポケットからスマホを取り出す。


「メールだ……」


笑顔でメールを開いたまでは良かったのだけど、スマホのディスプレイに視線を落とした瞬間、彼の顔が引きつり、ワナワナと震え出す。


「専務?」


声を掛けても彼の目はディスプレイに釘付けで、何かを確かめる様に何度も画面をスクロールしている。そんな状態が数分続き、今度は誰かに電話をし始めた。


電話の相手に「すぐに"藤の間"に来い!」と怒鳴ると私の腕を凄い力で掴み、無言で睨んでくる。彼の爪が肌に食い込み痛みで顔が歪む。

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