クールな次期社長の甘い密約
「倉田……さん」
私の呼び掛けには一切、答えず、一礼した倉田さんが出口に向かって歩き出す。
まさか本気で会社を辞めるつもりなの?
このまま倉田さんを行かせていけないと思い後を追おうとしたが、後ろから専務に羽交い絞めにされ、もがいているうちに倉田さんは部屋を出て行ってしまった。
それでも倉田さんの名を呼び続けていると専務が私の声が聞こえなくなるくらい大きな声で怒鳴る。
「黙れ! あんな恩知らずで情のない男の名前なんか聞きたくもない!」
違う。倉田さんはそんな人じゃない。恩知らずで情がないのは、むしろ専務の方だ。
「そう言う専務はどうなんですか? 木村さんの子供は専務の子供なのに、それを認めず木村さんを会社から追い出したじゃないですか!」
「バカ言え! 木村は俺の子じゃないと認めて自分から会社を辞めたんだ」
「いいえ、木村さんの子供は間違いなく専務の子供です。木村さんがどんな気持ちで会社を去ったか……専務は全然分かってない!」
とうとう言ってしまった。でも、不思議と後悔はなかった。これで専務に嫌われて破談にされても仕方ないって開き直っていたんだ。
「それなら聞く。茉耶に俺の気持ちが分かるか? 俺は今まで津島物産の社長になる事だけを考えて生きてきたんだ。だが、親父は俺を未熟者だと言って認めてはくれない。
それが茉耶と結婚が決まったとたん状況は一変したんだ。これでやっと夢が叶うと思ったよ。なのに、木村が俺の子を妊娠したなんて冗談じゃない。
社長になれるかどうかの瀬戸際で部下を妊娠させたなんて事がバレたら、完全に命取りになる」