クールな次期社長の甘い密約
「命取り……」
専務は自分の事ばかりで、彼の口から木村さんを思いやる言葉は一言も出てこなかった。
専務は認めないけど、心の中では木村さんのお腹の中の子供は自分の子だって分かっているはず。なのに、木村さんの事も我が子の事も、これっぽっちも心配していない。それが悲しかった。
「自分の子供なのに、気にならないのですか?」
「別に……」
「別にって……専務は、社長になれれば他の事はどうでもいいんですか?」
ほんの少しでいい。否定して欲しかった。けれど、彼の口から出た言葉は――「あぁ、そうだ。俺は社長になれればそれでいい。それ以外の事に興味はない」だった。
言いようのない虚しさが胸を締め付ける。
「じゃあ……私に優しくしてくれたのは、会長に認めてもらって社長の座を手に入れる為だった……のですか?」
ずっと心に引っ掛かっていた疑問を吐き出すと感情のない顔で淡々と話していた専務の瞳が寂し気に揺れる。
「茉耶……」
悲壮感漂う声で名前を呼ばれ、高ぶった感情は一気に鳴りを潜め勢いで言ってしまった事を激しく後悔した。
「あ、あの、専務……私……」
酷い事を言ってしまった事を謝ろうとしたその時――
「その通りだよ」
「えっ?」
「俺は、じいさんを味方に付ける為に茉耶を利用したんだ」
「あ……」
そうかもしれないとは思っていたが、実際に面と向かって専務の口からハッキリ言われるとやっぱりショックで……涙が溢れてくる。