クールな次期社長の甘い密約
彼の名前を出されたら断るワケにはいかない。自ら進んでトレーを手にし、常務の後を付いて行く。
そう言えば、会長が危篤の時、倉田さんは常務に電話して様子を聞いていた。という事は、二人は結構親しいのかも……だとしたら、常務は倉田さんが今どこに居るか知ってるかもしれない。
豪華な料理には目もくれず、適当にビーフシチューとサラダをトレーに乗せると逸る気持ちを抑え席に着く。
「あの、倉田さんの事で私に話しとは……なんでしょう?」
急かす様に訊ねる私を真っすぐ見つめた常務が意味深な笑みを浮かべる。
「大沢さんは、倉田君の素性を知っていますね?」
「あ……それは……」
「心配しなくても大丈夫です。アナタが知っているという事は、倉田君から聞いていますから」
倉田さんが自分のプライベートを常務に話していたと知り、驚いた。でもそれは、常務を信頼しているって事だよね。
「倉田君とは、彼が津島家を出て実母の元に戻った頃からの付き合いでね」
常務が言うには、社長は津島家を出た倉田さんをとても心配していたそうだ。でも、会長や専務の手前、自分が表立って援助するのは憚られ、公私共に親しくしていた常務に倉田さんの相談相手になってやってくれと頼んだ。
「僕は、倉田君の保護者みたいなものでね、保証人が必要な時は名前を貸していたんですよ」
「そうだったのですか」
「初めて倉田君に会った時、彼は私を警戒して全く喋ってくれませんでした。普通に会話が出来るまで一年掛かりましたよ。しかし、心を開いてくれた後は色々な事を話してくれましてね……」