クールな次期社長の甘い密約

常務はそこまで言うと押し黙り、俯いてため息を漏らす。


「……彼は、可哀想な子だ」


私は常務の言葉に大きく頷いた。


そう、倉田さんは可哀想な人だ。父親の居ない子として産まれ、一番母親が恋しい時に引き離されたんだもの。それに、やっと津島の家に慣れたと思ったら、弟が産まれて厄介者扱い。挙句の果てに実母の元に帰された。


その実母も病で亡くなり、慕っていた養母もこの世を去った。そして今、弟の為に尽くしてきたのに、その弟に会社を追い出されてしまったんだもの。


「私のせいなんです。私のせいで倉田さんは会社をクビになった……」

「いや、大沢さんが秘書課の木村君の事を詳しく知りたいと思うのは当然の事だよ。君は専務の婚約者なんだからね」

「あ、あの……常務は木村さんの事をご存じなのですか?」

「あぁ、倉田君に聞いて全て知っている。全く酷い話だ。しかし、君をホテルに連れ込んだのは倉田君のミスだな。何かあったんじゃないと疑われても仕方ない」

「えっ、それも話したのですか?」


まさか、あの事まで常務に話していたとは……でも、一匹狼だと思っていた倉田さんに、なんでも話せる人が居たという事が分かって嬉しかった。


倉田さんは独りぼっちじゃなかったんだね。ちゃんと頼れる人が居たんだ。


安堵して微笑むと常務が「それだけじゃないですよ」と含み笑いで呟く。


「倉田君が大沢さんをどう想っているかも知っています」

「えっ?」

「倉田君の一番大切な女性は……大沢さん、アナタですよね?」

「あ……」


確かに、以前はそうだったかもしれない。でも今は、もう……

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