クールな次期社長の甘い密約
「それは、過去の話しです」
消え入りそうな声で否定するが、常務は本当にそう思っているかと真顔で詰め寄ってくる。
「はい、私の事は忘れると倉田さんに言われましたから」
「僕はそうは思わないけどね。以前の倉田君は専務の事しか話題にしなかったが、今はアナタの心配ばかりしている。彼はまだ、大沢さんが好きなんですよ。好きだからこそ、あんなバカげた提案を受け入れたんです」
「バカげた提案?」
「そう、専務が倉田君に提案した認知の件です。アナタも倉田君に聞いて知っているでしょ?」
認知……? 何それ?
なんの事か全く分からずポカンとしていると今まで穏やかな口調で話していた常務が急に語気を荒げる。
「倉田君が専務を支えたいと言っていたから僕もあえて口出しはしなかったが、あれは酷い。専務の人間性を疑いましたよ」
「あの……認知の件と言われましても、私にはなんの事かサッパリ……専務は何を認知しろと?」
常務の顔が青ざめ「知らなったのかね?」と呟いた声のトーンは完全に下がっていた。
「教えて下さい。専務は倉田さんにどんな提案をしたのですか?」
「あ、いや……僕はてっきり、大沢さんも承知しているものだとばかり……倉田君が話していないのなら、僕が言うワケにはいかないな……」
口籠る常務を問い詰めるも、常務は頑なに口を閉じ話してはくれなかった。でも、常務が激怒するほどの何かがあったのは事実。こんな中途半端に話しを止められたら、よけい気になる。
「認知という事は、もしかして木村さんの子供と何か関係があるんじゃ……」