クールな次期社長の甘い密約
「大沢さんが家族の幸せを願う様に、僕は倉田君の幸せを願っています」
「常務……」
「今まで辛い思いをしてきた倉田君が初めて本気で女性を好きになった。その事を知った時、僕は心底嬉しかった。"家族"に翻弄され続けてきた彼は、もう人を愛する気持ちを失ってしまったんじゃないか……そう思っていましたからね。
心から愛しいと思える女性と結婚し、温かな家庭を築く事が倉田君にとって一番の幸せ。僕はそう考えています。もし、大沢さんが倉田君の事を想ってくれているのなら、専務との結婚を考え直して欲しい」
常務の言葉は私の心を大きく乱した。
出来るものなら私も倉田さんの傍に居たい。彼の温もりを感じながら共に生きていきたい。そんな想いが一気に膨らみ、溢れ出しそうになる。
熱を帯びた体を抱き締め、私はこんなにも倉田さんを愛していたんだと実感する。でも……
「もう少し……考えさせて下さい」
それが今の私の精一杯の答えだった。本当は、何もかも捨てて倉田さんの胸に飛び込んでいきたい。なのに、どうしても一歩踏み出す勇気が出ない。
すっかり冷えてしまったビーフシチューを返却口に戻し社食を後にした私は、麗美さんにラインした。
《木村さんの自宅の住所分かりますか?》
勇気はないけど、事実は知りたい。常務が教えてくれなかったバカげた提案とはなんなのか、それを確かめたかったんだ。