クールな次期社長の甘い密約

私まで発作を起こしそうだ……なんて思いながら必死で笑顔を作り「今日は会長にお願いがあって来ました」と背筋を伸ばす。


「ほう! ワシに願いとは嬉しい事を言ってくれる。それで、その願いとは?」


身を乗り出す会長と目が合った瞬間、不意に母親が言っていた言葉が頭を掠め、思わず手を口を覆う。


思い出したのは、母親が亡くなったおじいさんに言われたというあの言葉だ。


"自分が困っている時、津島さんって人が現れて償いをさせて欲しいと言われても、決して頼ってはいけない……"


そして、ひいおばあさんがおじいさんに言った言葉も……


"人の弱みに付け込で、施しを受けようなんて卑怯な事を考える人間にだけはなるな"


私はとんでもない事をしようとしていたのかもしれない。


「あぁ……」


ゾクリと寒気がして鳥肌が立った。


己の利益の為に会長を利用しようとしている愚かな自分に身震いし、そして醜い心を恥じた。


私は、ひいおばあさんから引き継がれてきた思いを無にしようとしている。


「何を迷っておる? 早く願いを言うておくれ」


急かす会長の顔をまともに見る事が出来ず、このまま何も言わず帰ろかと思った。でも、ふと思ったんだ。


自分の為のお願いじゃなかったらいいのかな?


もちろんその質問に答えてくれる人は居ない。その考えが間違っているのか否か、確かめる術もない。という事は、大目に見てもらえるかな? うぅん、大目に見て欲しい……


「あの、私のお願いというのは……」


この願いだけは、どうしても聞き入れてもらいたい。

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