クールな次期社長の甘い密約

「倉田さんを……どうか、倉田さんを認めてあげて下さい」


穏やかだった会長の表情が険しくなり、手に持っていたシュークリームをグシャリと握り潰す。


「それは、どういう事だね?」

「あ、その……倉田さんは会長を祖父として慕ってます。会長に認めてもらいたと思っているんです。会長が危篤になった時も、このまま会えずに別れたら後悔すると言って、暴風雨の中、危険を顧みず病院に駆けつけようとしていたんです。

ですからお願いです。倉田さんも専務同様、同じ孫として接してあげて下さい。それがダメなら、せめて話しだけでも……彼の気持ちを知ってもらいたいんです」


会長は何も言わず私の話しを聞いてくれていた。でも、最後まで首を縦には振ってくれなかった。


何度も頭を下げて病室を出ると一気に緊張の糸が切れ、その場にしゃがみ込んでしまった。すると会長の怒りに満ちた表情が思い出され、自分がした事は本当に正しかったのかと不安になる。


倉田さんを認めて欲しくて夢中であんなお願いをしてしまったけど、あれは要らぬお節介だったんじゃ……


そんな風に考えると頭の中が真っ白になり、会社に戻るタクシーの中でも放心状態で何も考えられなかった。


そして会社の玄関を入り、エントランスをおぼつかない足取りで歩いていると受付に居た森山先輩が慌てた様子で駆け寄って来る。


「大沢さん、大変な事になってるわよ」

「大変な事?」

「アレが社員の間に広まってるのよ」


そう言われても放心状態の私はピンとこない。

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