クールな次期社長の甘い密約
専務は私をマンションに閉じ込めて外部との接触を全てシャットアウトするつもりの様だ。
イヤだ……そんなのイヤだ。
虚しさと怒りが入り混じり、もう耐えられないと思った。スマホを出せと迫ってくる専務の手を払い除け、私は別れの言葉を口にする。
「婚約を解消して下さい。結納金と借金は何年掛かっても必ずお返しします。ですから……お願いします。私と別れて下さい」
しかし専務は全く動じず、私の手から強引に鞄を奪い取ると中からスマホを取り出す。
「いや……返して」
慌ててスマホを取り返そうとしたけど、反対にソファーに押さえ付けられた。
「まだ倉田のアドレスを入れてたのか? アイツはもう津島物産の社員でもなんでもない。関係ないヤツは消せ」
そう言うと勝手に倉田さんのアドレスを削除しようとする。
「ダメ! 消さないでーっ!」
必死に手を伸ばしたが抵抗虚しく倉田さんのアドレスは削除され、私のスマホは専務のスーツのポケットの中へと消えていった。
悔しくて、堪らなく悔しくて、込み上げてくる怒りと涙に私の理性は完全に崩壊し、後先考えず大声で叫んでいた。
「津島物産という会社は、そんな事をする人でも社長になれるんですか?」
「何?」
「都合の悪い事は全部倉田さんに押し付けて平気で居られる人が社長だなんて、社員が可哀想です」
「うるさい! 黙れ!」
「いいえ、黙りません。実の兄を簡単に切り捨てる様な人に社長が務まるとは思えません!」
余裕の表情で私を見下ろしていた専務の顔が強張る。
「俺と倉田の関係を……知ってたのか?」