クールな次期社長の甘い密約
が、その時、ふと思ったんだ。今のままの方が倉田さんの為にはいいのかもって。今まで津島家に振り回されて辛い思いをしてきたけど、このまま姿を消せば、誰に指図される事無く自由に生きていける。
全てを捨てるつもりだったから、誰にも居場所を明かさず居なくなったのかもしれない。だとしたら……その中に私も含まれているんだよね?
倉田さんにとって私は、もう過去の人間なのかもね……
――その日の夜、帰って来た専務はご機嫌だった。
「出張で大阪に行っていたんだが、急に役員会議があるから戻ってこいって言われて参ったよ。でもな、予定をキャンセルしてとんぼ返りした甲斐があった。じいさんが会長を降りるって話しだったからな。
親父が会長になれば、いよいよ俺が津島物産の社長だ」
「それは……決定なのですか?」
「いや、正式な発表は俺達の結婚式の日だ」
「結婚式の日?」
「じいさんは津島の人間を後継者にすると断言した。そして発表が俺達の結婚式となると、その意味……分かるよな?」
「あ……」
やっぱりそうなるんだ。社長になるのは専務……
専務が言うには、結婚式の日に専務の社長就任を発表するのは、内外にアピールする為。披露宴には政界や財界のドップが集まるから、最高のタイミングなんだと。
「そう言えば、会議が終わった後、じいさんが言ってたよ。病院に見舞いに行ってくれたそうだな。茉耶が来てくれたってじいさん喜んでたぞ」
「喜んでいたのですか?」
「ああ、茉耶は優しい娘だって褒めてたよ」
えっ、会長が私を褒めてた? あんなに怒らせてしまったのに?