クールな次期社長の甘い密約

会長の真意も、倉田さんの行方も分からないまま、とうとう結婚式の日を迎えた。


式は午後二時から。実家の両親は昨日の内に上京して式を挙げるホテルに宿泊している。到着したのが夜遅かったって事もあり、直接ホテルに向かったそうで、まだ会ってはいない。


「茉耶のお母さんから電話があって、遅くても十一時までにはホテルに入れってクドいくらい言われたからな、そろそろ出るか? ホテルに行く前に、会社と区役所にも寄らないといけないし……」

「日曜日でも婚姻届、受理してくれるんですね」


そう、今日は日曜で休日だ。区役所だけじゃなく会社も休みだけど、午前中に会長辞任と新たな社長発表の会見の様子がネット配信される事になり、津島物産の係長以上の社員は休日出勤して会社でその中継を観るようにという指示が出たそうだ。


おそらくその指示をしたのは専務。彼は新社長の発表後に休日出勤した社員の前で、自分が津島物産の社長だと宣言したいのだろう。


専務の自己満の為に休日出勤させにれる社員が気の毒でならない。


間もなく迎えの車が到着したと連絡が入り、意気揚々と立ち上がる専務。そんな彼とは対照的に、私は憂鬱な気持ちでゆっくり立ち上がる。


マンションの駐車場でいつもの黒塗りの車に乗り込み、まず向かったのは、津島物産の本社ビル。車は普段止める地下駐車場ではなくビルの玄関前に横付けされた。


隣の専務が背筋を伸ばし、スーツのボタンを留めると腕時計をチラリと見る。


「そろそろ、じいさんの会見が始まるな」

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