クールな次期社長の甘い密約
「麗美さん、色々有難う。でも、もういいんです」
「えっ? いいって、せっかく倉田課長と連絡が取れたのに?」
「私と専務はこの後、婚姻届を提出しに行きます。もう時間がありません。それに、倉田さんには津島家と関係のない所で自由に生きてもらいたいんです」
「茉耶ちん……」
麗美さんに向かって小さく頷くとテレビモニターに視線を戻す。しかし、まだ会長の挨拶が延々と続いていて社長の名前が発表される気配はない。
専務、イラついている……そう思った時、専務のスマホが鳴った。
その電話の相手は私の母親だった様で、花嫁は支度があるから早く連れてこいとかなり怒ってたらしく、専務は発表を待たずホテルに向かうと言う。
「えっ、いいんですか?」
「結婚式に間に合わなかったら困るからな。婚姻届も提出しなきゃいけないし、仕方ない。出るぞ」
再び湧き起こった社員の祝福の言葉と拍手に見送られ会社を出ると玄関前で待っていた車に乗り、今度は婚姻届を提出する為、区役所に向かった。
専務は会見の様子が気になる様で、一言も喋らず、スマホをガン見状態。
これで社長になれなかったらどうなるんだろう……なんて考えている間に、車は渋谷のスクランブル交差点に差し掛かった。
赤信号で停車し、信号が青に変わって前の車がゆっくり動き出す。徐々にスピードを上げ交差点の中央付近に来た時だった。
突然後ろでクラクションが鳴り響き、一台の車が大きく蛇行して私達が乗った車の前に割り込んできたんだ。