クールな次期社長の甘い密約
運転手が慌てて急ブレーキを踏み、なんとか事なきを得たが、その衝撃で私と専務は前方につんのめり、専務のスマホが吹っ飛んでしまった。
「馬鹿野郎! 何やってんだ!」
「す、すみません……車が急に割り込んできて……」
見れば、この辺ではあまり見掛けない薄汚れた軽トラが私達の乗った車の前を完全に塞いでいる。
どっかの田舎者が強引な割込みでもしたのかと思ったが、その軽トラのナンバープレートを見た瞬間、一気に血の気が引いた。
「うそ……どうして?」
それは、私の父親が農作業の時に乗っている軽トラだったから……
父親が血迷って暴走したんじゃないかと思い、慌てて車を降りて軽トラに駆け寄ろうとした。でも、ここは交差点のど真ん中。しかも信号は青だ。直進する車がギリギリの所をすり抜けて行く。
「茉耶、車に戻れ!」
専務も車から出て来て私の腕引っ張るけど、父親が気になって専務の声が耳に入らない。暫く揉み合っていると軽トラの運転席のドアが開き、キャップを目深に被ったツナギ姿の男性が降りてきた。
「違う……」
「何が違うんだ? 早く車に戻れ!」
「お父さんじゃない……」
そう、そのツナギ姿の男性は、父親よりずっと背が高くて若かった。
まさか……うぅん、そんなはずは……
混乱する頭を左右に大きく振り、再び男性を凝視すると……
「――大沢さん、迎えに来ました」
その笑顔――幻かと思った。でも、これは幻なんかじゃない。キャプを取った頭はボサボサで、土で汚れた長靴を履いているけど、この人は間違いなく倉田さんだ。