クールな次期社長の甘い密約
私が心配する事はなかったんだ。倉田さんはずっと前から会長に認められていたんだ。良かった。本当に良かった。
嬉しくて私も笑顔で倉田さんの手を力一杯握り返す。が、その時、ふと思ったんだ。私はとても大事な事をスルーしていたんじゃないかと……
「つかぬ事をお聞きしますが、会長は、自分が一番認めている人に会社を任せるって言ったんですよね? それって、まさか……」
「おや? さっきの会長の発表を聞いてなかったのですか?」
「聞こうとおもったら倉田さんに車に乗せられたから聞こえませんでした。だから私はてっきり、専務の名前が呼ばれたんだとばかり……」
「それは残念でしたね。私が認められた瞬間でしたのに」
「って事は、倉田さんが……津島物産の……社長?」
前を向いたままコクリと頷く倉田さんを見て腰が抜けそうだった。
こんな展開になるなんて……これぞ正しく青天の霹靂。
しかし、倉田さんは会長から社長になってくれと打診された時、一度は断ったらしい。
「実は、随分前から常務に社長になれと言われていましたが、私はずっと断っていました。社長になるのは貴志だと思っていましたからね。それに、私が社長になる事を会長が賛成するはずはないと思っていましたし」
でも、その会長が倉田さんに社長になってくれと言ってきたんだ。
倉田さんが断っても会長は諦めず、会社の為に受けてくれと電話を切ろうとしなかった。