クールな次期社長の甘い密約
「せっかく会長が認めてくれたのに、どうしてすぐに受けなかったのですか?」
「それどころじゃなかったからです」
「社長になる事より大切な事があるのですか?」
そんな事があるのかと驚いていると倉田さんが微苦笑し、私の頬を撫でる。
「さっきの会長の夢の話しには続きがあるんですよ。大沢さんの曾祖父、大原源治さんはこうも言ったそうです。"自分達の可愛い玄孫をお前達の都合で好きでもない男と結婚させるつもりか?" とね」
「うそ……」
会長は当初、それがどういう意味か分からなかったそうだ。でも、役員会議の後、常務に私と倉田さんの気持ちを聞いて慌てたそうだ。
「会長は、私と大沢さんの仲も認めると言ってくれたんです」
けれど、それには条件があった。結婚式直前に破談という事になると専務があまりにも可哀想。なので、専務が納得いく形で私と別れるようにして欲しい。それが会長の願いだった。
「そんな話しを聞いた後に、社長を受けてくれと言われてもねぇ……こっちは、どうやって貴志を納得させてアナタを取り戻すか、それを考えるのに必死で、社長就任の話しどころじゃなかった」
「ああぁぁ……倉田さん」
社長になる事より、私の方が大切だなんて……感激して胸がキュンとする。
そこで倉田さんは、社長の件は検討するので自分が返事をするまで公にはしないで欲しいと会長に頼み電話を終わらせた。
「普通に話しても貴志が素直にアナタを手放すとは思えない。ですから、五千三百万を返す事にしたんですよ。貴志が別れる条件だと言った五千三百万を返せば、貴志も文句は言えないと思ったのです」