クールな次期社長の甘い密約

玄関の鍵は、専務に言われてちゃんと掛けたのに……それでも入って来たって事は、倉田さんはこの部屋の合鍵を持ってるんだ。


「専務から聞いてますね? 送ります」

「あ、はい。それと、昨日は迷惑を掛けてしまって申し訳ありませんでした」


低姿勢で謝る私を見下ろし「自分の限界は知っておくべきです」と吐き捨てる様に言う倉田さんは、最高に不機嫌だ。


そうだよね。専務の命令とはいえ、仕事に関係ない私の事で振り回されているんだから迷惑だって思うのは当然だ。それに、今日は土曜日。休日だ。休みの日まで駆り出されたら誰でも怒るよね。


反省してシュンとしていると、倉田さんがキッチンに向かい徐に冷蔵後を開ける。


「朝食は? 何か食べましたか?」

「あ、いえ、あまり食欲がなくて……」

「それは分っています。かなり泥酔してましたからね。あれで二日酔いになっていなかったら鉄の肝臓です」


返す言葉もない。彼の一言一言が胸にグサグサと突き刺さり、再びシュンとしているとキッチンから何かを刻む音が聞こえてきた。見れば、エプロン姿の倉田さんが手際よく料理を作っているではないか。


「倉田さん、何をしてるんてすか?」

「見て分かりませんか? 朝食を作ってます」

「いや、そういう意味じゃなくて、どうして朝食を? まさか、私の為に?」


軽快な包丁の音を響かせながら「他に誰が居ます?」って言うからたまげてしまった。


専務秘書の倉田さんにそんな事をさせたらバチが当たりそう。だからやんわり断ったのに、彼は私を完全無視。仕方なく手伝おうとしたんだけど、邪魔だと睨まれキッチンから追い出されてしまった。

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