クールな次期社長の甘い密約
「――どうぞ食べて下さい」
目の前に置かれたのは、見るからに胃に優しそうな中華がゆで、たっぷりの野菜とトロトロの卵が入っていて鶏ガラのいい香りがする。しかし、私の視線は向かいに座っている倉田さんに釘付けになっていた。
「私の顔に何か付いてますか?」
「あ、いえ、倉田さんはお休みの日もスーツなんですね。それに、そのヒヨコちゃんのエプロン……凄くお似合いで……」
口ではそう言ったが、本当は全然似合ってなくて笑いを堪えるのに必死だった。
「外出する時はスーツと決めています。このエプロンは、専務の部屋にあったのをお借りしました」
「えっ、専務の趣味なんですか?」
あの専務がヒヨコちゃん好きだったとは……驚いた。
「勝手に想像しないで下さい。専務はエプロンなどしません」
倉田さんの一言葉でハッとした。
あ……そういう事か。秘書課の彼女が部屋に来て料理を作ってるんだ。このエプロンは、その彼女が置いていった物。
一気にテンションが下がり、浮つていた自分が恥ずかしくなる。
「それより、早く食べて下さい。冷めてしまいます」
食欲がない上に、専務と彼女の親密さを見せつけられ、よけい食べる気が失せてしまった。でも、せっかく倉田さんが作ってくれたのだから食べないワケにはいかない。引きつった顔で蓮華を口の中に押し込む。すると……
「わぁ、美味しい!」
あんなに食欲がなかったのに、あっという間に完食してしまった。