クールな次期社長の甘い密約
倉田さんは玄関でスリッパを床に並べると私と専務に一礼し、そのまま部屋の奥へと姿を消す。専務も特に気にしている様子はない。
戸惑いつつリビングに行くと、またあのヒヨコちゃんのエプロンをした倉田さんがカウンターキッチンの向こうで忙しく動き回っていた。
はぁ? どういう事?
立ち止まり倉田さんの動きを目で追っていたら、専務がダイニングテーブルの椅子を引きながら言ったんだ。
「倉田の料理は絶品だよ。その辺のレストランで食べるより、よっぽど旨いからな」
「料理……? ですか?」
確かに以前、倉田さんにご馳走になった中華がゆは美味しかった。でも、これってデートだよね? もしかして、そう思っていたのは私だけ?
複雑な心境で専務がグラスに注いでくれた食前酒のシャンパンに口を付けると倉田さんが「フレンチはお好きですか?」って聞いてくる。
フレンチってフランス料理の事だよね? 好きかって聞かれても、ど田舎に住んでた私はそんなの今まで食べた事がない。
「は、はい、大好きです」
知ったかぶりをして笑顔で答えるが、内心どんなモノが出てくるのか不安でいっぱいだった。けれど、ジャガイモの冷製スープとやらも、トマトのキッシュとやらも、目玉が飛び出るくらい美味しくて特にメインの牛フィレ肉は山椒の香り漂うソースが本当に絶品だった。
こんなの生まれて初めて食べた……
「倉田さんってシェフだったのですか?」
感動しまくってテンション高く聞いたのに、彼は私達の食べ終わったお皿を洗いながら「ただの趣味です」って相変わらず素っ気ない。