クールな次期社長の甘い密約

私は森山先輩の手を両手で強く握り「絶対に言いません」と清い心で固く誓う。


「あのね、倉田課長が津島物産に入社したのは、十五年前。縁故枠で入社したにも関わらず、僅か数ヵ月で退職してアメリカのハーバードに留学しちゃったのよ」

「えっ? 退職って……津島物産に居るじゃないですか?」

「バカね、話しを最後まで聞きなさい。いい? 倉田課長はね、ここを辞めた十二年後、つまり今から三年前にまた津島物産に入社したのよ」


なんだそれ? 出戻りって事?


「意味不明なところが倉田さんらしいですね」


呆れて笑う私に森山先輩は「そんな風に思ってくれる人ばかりじゃないわ」って遠い目をする。


「縁故枠で入社したのに簡単に辞めて、また平気な顔で戻って来たんだもの。快く思わない人は沢山居るわ。

それに、いくら留学経験があって英語が堪能でも、いきなり社長の秘書だなんてね~おまけに、異例の昇進。不透明な部分が多過ぎるのよ。

今は専務の秘書になって彼に気に入られいてるから誰も何も言わなくなったけど、当時は色んな噂が流れたわ」


その噂は、どれも根も葉もないモノだったが、一つだけ今でも囁かれている噂があるそうだ。


それは、倉田さんが津島物産に取引を中止されて倒産した会社の社長の息子で、その後、それが原因で一家心中し、彼一人が生き残ったという噂。実際に三十年前、そんな事件があったらしい。


「倉田課長は自分の家族を津島物産に殺されたって思って、復讐の為にこの会社に就職したんじゃないか……ってね」

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