クールな次期社長の甘い密約

「あなたが専務の新しい彼女の大沢さんね。受付で何度か見掛けたわ。どうぞ宜しく」


木村さんは笑顔だったが、宜しくなんて思ってないのは丸分かり。だって、目が全然笑ってないもの。それが分かっているのに、ライバル心を露わにする事も出来ず、ヘタレな私は完全に萎縮している。


この人は、まだ専務が好きなのかもしれない。だとしたら、私の事を恨んでいるよね。私はそんなつもりはなかったけど、結果的に木村さんから専務を奪う形になってしまったのだから。


そう考えると後ろめたい気持ちになり罪悪感に苛まれる。


「それでは、行きましょうか」


倉田さんが専務のキャリーバックを引いて歩き出し、私達もつられて歩き出す。が、木村さんが私を追い越し際に蔑む様な目をして囁いた。


「専務の事は、私が一番よく分かっているの。調子に乗ってあまり浮かれない方がいいわよ」

「えっ……」


その一言で専務に会えた喜びが一気に吹っ飛び胸がキリキリ痛む。


木村さんは、私がすぐに振られるって思っているんだ。そして、専務が自分の元に戻ってくると信じている。


彼女の堂々とした態度に圧倒され、私はすっかり自信喪失。車に乗っても助手席の木村さんが気になって隣の専務に話し掛ける事も出来ない。


いつしか車内は木村さんの独壇場となり、出張中の出来事を身振り手振りも加え、嬉しそうに倉田さんに話していた。でもそれは、倉田さんにではなく、私に聞かせる為だったのかもしれない。

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