赤いサヨナラは僕に似合わない



僕は多分、世間で言うところの出来そこないだ。

社会に取り残された、バイトの稼ぎと親の仕送りだけでなんとか生きてるような、そんなクソみたいな奴。



20歳になって大学を辞めた。せっかく苦労して入ったのに、僕には行く意味を見出せなかった。

酒と女とタバコには気をつけろって、上京するとき親父が言った。本当にその通りだった。僕はタバコは吸わなかったけど、酒に溺れたし、女が好きだった。

アホみたいだった。アホみたいに遊んだ。僕は周りの奴らよりそれなりに顔立ちがいいみたいで、寄ってくる女はわんさかいた。僕はそれを、端から抱いた。


君に出逢ったのは、大学をやめて3ヶ月くらいした頃。僕はまだ20歳3ヶ月で、君はまだ20歳4ヶ月だった。

そういえば、あの日僕が夜の街で君を見た時、暗闇の中で一際目立つ赤い口紅に惹かれたんだった。

僕が声をかけた時、君は泣いていた。夜の街の片隅で、赤い唇を震わせながら、静かに涙を流していた。


あの夜泣いていた理由を僕は聞かなかったし、君も言おうとはしなかったね。


僕らはその時初めて出会ったのに、まるで熟したクランベリーが弾け飛ぶみたいに熱いキスをした。暗闇は僕らを隠していたし、君が僕を求めていたし、僕は君に一目惚れだった。理由なんて、そんな簡単なことだった。

もっとも、今思えば、あの時声をかけたのが僕じゃなかったら、君は違う奴とそういう関係になっていたんだろうけど。

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