幾久しく、君を想って。
久保さんの囁く声を耳に入れながら、聞こえない素振りをして逃げる。
中へ入れば険しい顔つきをした高本さんがいて、睨むような眼差しで外を見ている。



「宮野さん」


声をかけてくるけれど、目線は外を向いたままだ。


「何ですか?」


こっちはわざと外を見ない様にして、高本さんを視界に入れた。


高本さんはそんな私の方に振り向いた。
キリッと眉を引き上げると側に寄り、力強く両肩の関節を握る。


「負けないで」


それは有名な歌のタイトルと同じ言葉だけど。


「何のことですか?」


小さく首を傾げると、外にいる二人をちらりと見遣る。
さっきまで睨んでいたのだから、きっと二人に関係することを言い出すんだろうな…と見当がつく。

松永さんとメッセージの交換をしていることを知らない高本さんは、この最近もずっと、「まっちゃんはお勧めだ」と、私に言い続けていた。



「あんな若さだけの女子に負けないで」


成る程。そういう意味での『負けないで』か。


「勝つとか負けるとか、そういうレベルじゃないですけど」


久保さんはお嬢様っぽい雰囲気で可愛くしているし、私はバツ付きコブ付きのアラフォーだ。


「戦う以前に決着が着いています。そもそも同じ土俵には上がる気もしません」


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