幾久しく、君を想って。
両手に包まれた手が温もっていくのを覚えながら、金曜日の夜のことを思い出した。
胸が高鳴るのを知り、それを堪えて謝った。



「……この間は…逃げてごめんなさい」


目を伏せながら包まれている手を見つめた。
こんな状況なのに、思い出したのは拓海を出産した夜のことだった。


考えてはいけないと思いながらも、やはりそこを避けては通れない。
思いきって全てを打ち明け、それから前を向いていこうと決めた。


顔を上げ、彼のことを見定める。
どんな結果になっても、今夜のことは忘れないでおこうと思った。



「…別れた主人と手を重ねたのは、拓海を生んだ夜が最後だった様な気がします…」


私の口から出た言葉に松永さんの目が開いた。
一瞬、狼狽えたけれど、それが私の人生の一部だと伝えたかった。


「『これからは三人で力を合わせて生きていこう』と言われました。嬉しくて……心からの涙が溢れました」


最高の思い出を語り、ぎゅっと唇を結んだ。

そこから最後の日までは、辛い思い出しか記憶にない。



「…この間、松永さんとキスをした時も、主人と交わした夜のことを思い出しました」


夜…という言葉に気の抜けた様な感じで手が離れた。
彼の手の中に紙コップを預け、仕方ないことだと思いながら続けた。


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