幾久しく、君を想って。
「だったらどうして思い出すんですか!俺は別れた女のことなんて、少しも考えたこともないのに」


そう言いながらも語尾は弱めだ。
全くとは言い切れないものが、きっと彼の中にもある筈だ。


「どうすればいいですか?相手を忘れさせるには」


忘れさせる…という言葉には抵抗を感じる。
忘れることは、多分きっと無いだろうと思う。


「忘れることは無理だと思います。…だって、あの人の血を受け継ぎ、私に過去を思い出させる子供がいるから!」


ただのバツイチじゃない。
拓海という子供を産んで、その子を愛し、育てている。


「私は松永さんとは立場が違うんです。自由に次の恋愛に移れない!拓海を裏切ってはいけない。あの子を守って、育てる役目も担っています!」


「だから、俺の気持ちには応えられないと?」


問い掛ける彼の声が悲しそうに聞こえた。
揺れ動く眼差しを見て、ぐっと涙が溢れそうになった。




「………それが出来れば……こんな時間に……ここには居ません……」



応えたいからこそ、こっそりと部屋を出た。
拓海を置いてまで部屋を出たことは、離婚して以来初めてのことだ。


「松永さんの言葉に応えたい。…でも、それが怖い気持ちもあるんです。もしもまた壊れたら……そう思ったら、踏み切れない思いがあります。
もう二度と恋なんてしたくない。傷付くのが嫌で…拓海を巻き込むのも恐ろしい……」


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