幾久しく、君を想って。
少しして鎮まり始めた気持ちを覚えながら、昼間のことを思い出した。


「……あの」


「ん?」


紙コップの端から顔を覗かせ、彼が小首を傾げる。


「今日…久保さんからチョコレートを渡されたんじゃないんですか?」


荷物を下ろした後で、彼女だけがなかなか中へ戻ってこなかった。

高本さんは鋭い目付きで外を見つめ、私はそれを知りながらも知らん顔をしておいた。


「うん、くれようとしたよ。…でも、義理以外は受け取りませんと先に牽制しておいたから」


「えっ…いつ牽制したの?」


昼間に聞いたお喋りと噛み合わず驚いた。
彼は口元を引き上げ、「先週に」と答えた。


「先週?」


遅れて入ってきたあの時?
でも、あの時の久保さんは、別に悲しそうな顔をしていなかった。


「あの時、久保さんは『義理なら受け取ってくれるんですね?』と言った。だから、『はい』と答えたんだけど…」


その先は教えてもくれず、黙ってミントティーを飲み干していた。

多分、久保さんからの本命チョコは渡されようとしたけど、上手に断りを言って避けたんだろう。



「帰らないとまずいね」


彼の声にハッとして車内の時計を確認した。
部屋を出る前に見た時刻から三十分以上が経っている。


急に拓海のことが気になり始めた。
四年生とは言ってもまだ小学生だった。


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