幾久しく、君を想って。
私が居なくなったことに気づいて慌てていたらどうしようか。
部屋の中を探しても姿がなければ不安だろう。


ガクガク…と体が震えだした。
自分のしたことの無責任さが襲ってきて、怖くて堪らなくなった。


「早く…車を出して…」


唇を震わせながら願うと、松永さんは「大丈夫」と、背中を撫でて発進させた。

車から降りる前にも、「もしも何かあったら直ぐに連絡してきて」と言い渡された。


手も握らずに飛び出したのに、それを咎めもされなかった。
母親の気持ちを取り戻した私を見ても、黙って送り出してくれた。



部屋に入り、一番最初に拓海の様子を覗いた。

出かけた時と同じように、静かな寝息を立てている。


眠っている顔を見ながらホッと心が安らいだ。
母親で居られることをこんなに嬉しいと思う瞬間はなかった。


足を忍ばせながら部屋へ行き、松永さんにメッセージを打った。


『気持ち良さそうに眠っていました。大丈夫そうです』


彼の子供でもないのに、安心して…と送った。

程なく返った文字には、息を吐くクマのスタンプが一緒に貼られてあった。


『良かった。それじゃゆっくりお休み下さい』


『松永さんは気をつけて帰って』


『ありがとう。また明日』



その文字が送られてきてから直ぐに、外から車のエンジン音が聞こえた。

窓に近付き、見えもしない道路を見遣った。


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