3センチHERO
「ただいま」
ガチャリという鍵の開く音とともに、私はドアを開けた。
心配性なお母さんは、家にいるときでも鍵をかけているのだ。
靴を脱いでリビングへ行くと、夕食を作っているお母さんの姿が見えた。
「あら、おかえり。今日はお友だちと一緒なのね」
「えっ?」
何のことか分からず、首をかしげる私に、お母さんは続けて言った。
「家の前で話していたじゃない。結子が友だちと楽しそうにしているの珍しいから、つい耳を立てちゃったわ」
「あ、うん…そう」
「今度は家に連れて来てらっしゃいよ。お母さん、たくさん料理作ってあげるから」
「うん、また今度ね」
嬉しそうに話すお母さんに、つい本当のことを言えなかった。
ぎこちない笑みをこぼして、答えを濁すばかり。
今日もまた、嘘偽りの笑顔でごまかした。