ビルの恋
午前9時。
新千歳に着き、空港を一歩出ると、冷たい空気に包まれた。
早春とはいえ、東京でいえば、真冬以下の気温だ。

「寒い」

思わず口に出る。

「すみません、すぐタクシーに乗れるので」

本条君はそう言って、私を連れてタクシー乗り場まで急いだ。

タクシーに乗ると、運転手さんに行先を告げる。
ゴルフ場、と言っている。

シートに体を預け、外を見る。

雪景色だ。

周辺にほとんど民家はなく、山も、畑らしき場所も真っ白。

「3月に入ってもまだこんなに雪深いんだね」

「ええ。今年は特に雪が多かったみたいで・・・夏堀さん、スキーは?」

「しない。本条君は?」

「まあ、普通に」

「サイモンはすごいって噂だよね」

「すごいですよ。
一緒に滑ったことがあるんですけど、弾丸みたいでした。
タフですしね」

本条君が笑う。
私も笑った。

「これからどこに行くの?
今日の予定は?」

聞いてみる。

「まずゴルフ場に行って、あとは夏堀さんの希望があればそこに」

ゴルフ場か。

「ゴルフ場といっても冬なので、コースは閉鎖中です。
付属のホテルがあるので、食事はできます。
温泉もありますよ」

本条君が手短に説明した。

「帰りの便は?」

「6時です。空港に5時半に戻れば間に合います」

なるほど。

「本条君、この辺で美味しい物って何?」

聞いてみる。
食べ物は、私の好きな話題だ。
会話を弾ませなくては。

「・・・何かな。ジンギスカン?」

「ヒツジは苦手かな・・・」

「横からあれだけど、お寿司がいいんじゃないかい?」

運転手さんが口を挟む。

「寿司か。夏堀さん、好きですか?」

「もちろん」

「じゃあ、お昼は寿司にしましょう」

そんな話をしているうちに、10分ほどで目的地に着いた。






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