待ち人来たらずは恋のきざし


ブー、…。
…あいつだ。何、急に。

【今、野菜のストックってしてるか?】

野菜?…いきなりね。

【色々、そこそこ、してます】

【前くらいの量、持って行っても大丈夫か?】

…段ボール一杯って事よね。
保存出来る物かどうかにもよるし。
駄目にしたくないものね。

【傷む前に、貴方が食べに来てくれるなら大丈夫です】

【解った。今日持って行くから】

あ、今日?来るんだ。

【解りました】

あ、少し遅くなる日だった。

【ごめんなさい。今日は午後から出勤だったから、帰りは遅くなります。
21時前には帰りますけど】

いいの?

【解った。取り敢えず、その頃に居るから。待ってる】

あ、…。

【はい】

はぁ、もう帰りたくなって来た。

まだまだ、残り時間はある。私らしく無い、気を引き締めなくては。




だから、訳の解らない人は…嫌なんだ。

…どうして、こんな日に。

最近、クレジットの契約件数が増えてきた。

購入商品に片寄りはあるような気もするけど、件数が増えたからといって、嫌な電話も増えなくて良さそうなものなのに…。

比例したようにこちらも増えてきたような気がする。

一日一件受けてもげっそりするのに…。はぁ。
今日は、既にもう二件…。

時間帯にも因るのかな。

勿論、人に因るって話だけど。

…はぁ。

声を掛けて席を少し離れる事にした。

帰りまで持たせる為に、ちょっとだけ息抜きをさせて欲しい…。

…さぼりになるのかな、これって。


珈琲を買ってテーブルに置いた。
飲む気は端から無い。いつもの一連の動作だから買った。
椅子に座ると突っ伏していた。

…はぁ…もう、嫌かも。

遠慮無く伸ばした腕がカップを掠め、倒してしまいそうになったと思う。
コツンと指先が当たったのは知ってる。

全然飲んでなくて返って良かった。
量が減っていたら確実にカップは倒れていたと思う。
更に面倒臭い気持ちになっていただろう。


「要らないようなら貰うぞ?

…丁度いい飲み頃の温度だ」

「どうぞ。…高いですよ」

顔なんか上げなくても声で解る。

「フ、この前のとで相殺だな。
大丈夫か?…立て続けだったな」

「私にだけ、わざと固めたでしょ、課長」

「そんな事するか」

「解ってます。相手がどんな人かなんて架けるまで解りませんから。
そんなの無い事くらい解ってます。

はぁ…、今日はそういう日なんです」

…、え。

頭に手を置かれた。

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