待ち人来たらずは恋のきざし
普通は急いで帰って来る為に着替えなかったと言えば、一刻も早く会いたかったからと、取ってしまうだろう。
課長から逃げる為だったとも言って無いから。
顔を包むようにして繰り返される男の口づけは、今日も甘い…。
柔らかい唇が何度も食む。
「…ご飯が作れなくなります。…もう、ん」
「…駄目だ、…ちょっとだけだから、ん、…もうちょっとだけだ」
角度を変えて繰り返され…何もかも…溶けて消えてしまいそう。
頭をこの男で一杯に…。
そうしたら、今日の事、何もかも忘れられる…。
「ん…少しは元気になったか?」
あ、…。
「…うん、はい」
「俺も元気になった」
…。んもう…それは…知らない。
「ご飯、炊いてください。貴方の仕事です。…早く、はい」
「ん゙ー、…はいはい」
名残惜しげなのはよく解る。私もだから。
出来ればこのまま続けたい…。
「何を…作りましょうか?」
野菜を沢山使える物がいい。
この大きな白菜で、簡単に出来る美味しいの、作りましょう。
確か豚バラがあったはず。
「はい、ご飯の仕度が終わったら葉の間に、こんな感じに豚バラを挟んでいってください」
土鍋を出して中に白菜を入れた。
「あとは…味が似てしまいますが、八宝菜にしますから」
「今日は、俺はアシスタント?」
「お弁当、買いに行ったと思って、代わりにお手伝いですよ」
「はい、はい、と」
パッパッパッと挟み込んでいってる。
…何気に手慣れているように見える。
器用な人なんだ。
「私…」
「ん?何、…出来た」
「有難うございました。
私、聞いて欲しい事があるの…でも、貴方は聞きたく無い話かも知れない。
でも聞いておいて欲しい事なの」
「俺が聞きたく無い事って解ってるなら、言わなくていい。
だけど…話さなきゃ気が済まないって言うなら聞く」
…。
「うん…。じゃあ、ご飯終わってからにします」
「…解った。
ご飯、準備したから、風呂は俺が入れてくるよ。
今夜は遅いから一緒に入ろう、…な?」
つまり、お風呂の中の方が話し易いだろうって、言ってくれているのね。
「…はい」