待ち人来たらずは恋のきざし
一緒にベッドに入った。
「景衣…」
身体を抱き寄せられた。
…はぁぁ。今夜はもう抱きしめてもくれないんじゃないかとどこかで不安に思っていた。
自分から男の胸に顔を押し付けた。
「…、ぁ」
「ん、どうした?」
「…何でも…無い、です」
これって…。どこか、こうして、なし崩しみたいにして許して貰おうみたいな気持ちがどこかに無意識にあるんじゃないかと思った。
私…少し甘えて、それで可愛らしくしようとしてるんじゃないかって…。
この人の事、怒らせてしまったと思っているから。
「ごめんなさい…」
寄せていた身体を離した。
「…景衣、どうした」
「…何でも無いです」
「なら離れるな」
あ、…。
また抱き寄せられた。
「大丈夫だ。今日はしないから」
「え」
「心配しなくていいから。…力ずくでなんかしたりしない」
「あ、違うんです。そうじゃない」
「ん?」
髪を撫でられた。…そんな優しい顔をしないで。
私なんかよりずっと大人だ…。
「私…ずるいんだと思って」
「何が…」
頭を胸に付けられた。
「あ、…さっき、…自分からこんな風にして、甘えました」
「それが?」
「自分でそんな態度をとって…女を使って…どこか機嫌をとろうとしてたんだと思います。
それを今、言ってるのもずるくて…。
上手く言えないけど、ずるい事をしている、そう思ったら…嫌になって」
「何言ってる」
「え、何って…私」
「素直で可愛いじゃないか」
「…え?」
「ちっとも悪くなんかない。まあ…ずるいかずるくないかって言えば、ずるいけどな?
だけど、それは女性の可愛い部分だって、一般的に男が思うんじゃないのかな。
多分、甘えられて悪い気がする男はいないはずだよ」
「…貴方は?」
「フ。…心配か?」
「はい…」
他の誰でも無い、貴方がどう思うのかが心配…。
「俺は好きじゃない」
あ、…やっぱり嫌なんだ。それは何となく聞かなくても解ってた。
「何でもかんでも女を使う奴は嫌いだ」
…。
「だけど、いつも強がってる女が見せる弱さは好きだ。…堪らなく可愛い。
心配しなくても、景衣のする事は好きだ。だから大丈夫だ。
自然に出た態度なんだろ?だったら仕方ないじゃないか。
…まあ、景衣の事は根っからずるいとか?策士だとか?そんな風には思わないから、安心して甘えてくれ。
それとも、俺はもう、上手く取り込まれてんのかな?」
あ。どうなんだ?って顔で見られた。…もう笑ってる。
「冗談だよ」
「ん…有難う」
素直に嬉しかった。男の顔を包んで口づけていた。
「おっ、ずるいぞ、これは」
「そう?…でも…衝動だったから無意識に…」
「それがずるいって言うんだ…」
「…ごめんなさい」
「謝らなくていいんだ…嬉しいんだから」
「え、どっち」
「いいんだ。景衣だから」
…いいの?
「私も…嬉しかったからしたの」