待ち人来たらずは恋のきざし


「浅黄」

…課長。

「はい」

「少し話がしたい。時間が取れる日は無いか」

「…仕事の事ですか?」

仕事の事では無いと思っている。でも、聞いてみた。

「プライベートな事だ」

はぁ…、やっぱりですか。

「どんな事でしょうかと聞いて見ても、ここでは話せないから、時間をって事ですよね」

「そうだな」

「…解りました。課長の都合に合わせますので、言ってください」

「いつでも構わないのか?俺は今日でも大丈夫だが」

「構いませんよ、今日で」

「…いいのか?」

何?この含み…。あぁ、そういう事ですか。

「会う予定はありませんから」

「そうなのか?
俺は毎日会ってるのかと思ったよ」

「…課長には関係ありません」

「そうだな。じゃあ、帰りに」

「…はい」

遅い日に合わせて聞いて来たんだと思う。

今日に限って、突然家に来て待ってたりしないわよね。

今のところ、来るとも連絡は来て無いし。

私が課長と話をする事は言っておいた方がいいのだろうか。

何でも無いと思うなら、一々話さないものだろうか。

広く一般のおつき合いをされている方々はどうしているのだろう。

…人に依るか。

言って無かった事で、隠し事をしたかのように思われても困る。それは厄介のもとになる…。


【今日は遅出の日で、更に遅くなります。来る予定は無いですよね?
課長に話があると言われたので、話をしてから帰る予定です。
心配は要りません】

これで隠し事にはならないで済む。

何を話すかは解っているようなもの。

自分の始末は自分で、だ。

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