1405号室の佐藤
「………ほんとにその子じゃなきゃだめなの? 絶対にその子のこと一生好き? そう言い切れないなら、あたしにだってまだ可能性あるよね? だって、あたしのこと、嫌いになったわけじゃないんでしょ?」


これも、今までずっと、何度も何度も考えていたこと。

とにかく、思っていたこと言いたかった全部、吐き出したかった。


ーーーでも。

そう言った瞬間、あたしには聞こえてしまった。


ユウジが電話の向こうで、小さく舌打ちする音が。

そして、くすくすと笑う女の子の声が。


あたしは唇を噛んだ。

あたしの手を包み込んでいる佐藤の手を、ぎゅっと握り返して、深く息を吸い込んだ。


「…………あたし、死のうと思うの」


なるべく平坦な声で言った。




佐藤が軽く目を瞠る。




もう一度、ぎゅっと握り返して、あたしはさらに言った。







「ベランダから飛び降りて、死ぬ。ユウジに捨てられたら、あたしもう、生きる意味ないもん。
もう無理、耐えられない。ユウジがいない人生なんて、やっぱり無理。だから、死ぬね」

《………楓、なに言って………》

「本気だよ? だって、ほんとにあたし、さっきまでベランダの手すりに乗ってたんだもん。でも、最後にユウジの声ききたくて……」

《………マジで、言ってんの?》

「うん。ユウジはあたしの全てだから。捨てられて一人で生きてくくらいなら、死んだほうがまし」

《……おい、かえ……》

「……………とか、思ってたけど」


あたしは、ふっと笑った。


「なんかもう、どーでもいいや」


ほんとに、どうでもよかった。


佐藤が隣で、ぷっと噴き出した。

あたしもくすくす笑う。


「ユウジなんてさ、結局、その程度の男だったんだよね。あたしに隠れて他の女の子と会って、こそこそ浮気して、でもあたしの前では優しい顔して機嫌とって。別れ話になっても優しい振りして、ほんとは、はっきり言うのが面倒くさいだけなんでしょ?」


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