その唇で甘いキスをして…
帰りはハルさんの車で店まで送ってもらった。

車の中でハルさんは書類を見ていてほとんど口をきかなかった。

「ハルさん…」

「悪い。この資料に目を通さないと…
これからクライアントに会って話をしなきゃならない。」

ハルさんはまるでアタシと話すのを避けてるようで
結局何も話せないまま店に着いた。

「じゃあ夜な。また迎えに来る。」

それだけ言うと運転手さんがドアを開けてアタシを降りるように促した。

アタシは重い足取りで車を降り、店に戻った。

店にはカオルが待っていた。

「ハルさん…呼んだでしょ?」

「お前、ハルさんに捨てられるぞ?

俺とのことで散々迷惑かけただろ?」

「カオルがハルさん呼んだから余計ややこしくなったんじゃん?」

「それでもジョウさんにこれ以上関わるのは見逃せない。」

その夜、ハルさんはいつものように迎えにきて
アタシたちはいつものように同じベッドで眠る。

ハルさんは眠る前にアタシを引き寄せた。

アタシはハルさんが抱いてくれることに安心する。

「ジュン…」

「ん?」

「俺が好きか?」

「うん、愛してる。」

アタシがそう言ってハルさんにキスしようとすると
ハルさんはアタシのキスを長く綺麗な指で制した。

「俺はお前の自由を奪ってるのかもな…」

そう言うとアタシの髪を撫でハルさんは言った。

「お前は現状に満足してないだろ?」

「そんなことないよ。」

「だったら何故俺にはいつも何も言わない?
お前が相談するのはいつもカオルだろ?」

「それはハルさんを心配させたくないから…」

「ジュン、この前はお義母さんに言われて無理矢理連れて帰ってきたが…
お前には時間が必要だよな?

もう一度家を出て考えてみた方がいいのかもしれない。

住むところは用意するし
ジョウにも好きなだけ会っていい。

だから…しばらく一人になって考えてみろ。」

「それは罰なの?」

私がそう言うとハルさんは笑った。

「お前がそう思うなら
お前は俺に悪いことしてるって事になる。」

ハルさんはまたアタシを一人にするつもりだ。



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