クールな御曹司にさらわれました
―――――妙、見てごらん。綺麗だなぁ。

父の言葉が蘇る。

―――――俺はね、人生楽しいのが一番だと思うんだ。おおらかに、卑屈にならずにさ。妙も、毎日幸せだって笑っていてほしいな。

とんでもない父親だ。私を卑屈にして笑えない状況に陥れるのはいつだって父なんだ。
でも、父にはなんの悪気もないのだ。この見晴台に連れてきたのも、家族に綺麗な景色を見せたかったから。私へのなんのてらいのない想いも、父の本心だ。

父は、……真中玄之丞は家族を愛していた。それだけは真実。

「タマ、その思い出はいい思い出か?」

ふと、尊さんが言った。

「悪い思い出なら、ここに連れてきたことを謝りたい。偶然とはいえ、気の利かないことをしたな」

「いえ!!そんなことないです!!」

父はとんでもない男だけど、でもこの思い出は別。

「いい思い出です。家族の数少ないいい思い出」

私は尊さんに向き直った。今なら、言いたかったことがきちんと言えるかも。

「昨日今日と気晴らしをさせてくれてありがとうございました」

「たいしたことはしていない」

「あと、仕事、手伝ってくださりありがとうございました!あらためて、御礼させてください。尊さんがいなかったら、期日に間に合わなかったです」

ぶんと頭を下げる。

あなたは大嫌いな誘拐犯だけど、ちょっと面白い人。人質の仕事を手伝ってくれたり、日常から離れさせてくれたり。
変わってて強引だけど、冷たいだけの悪魔じゃないんだね。うん、変な悪魔だ。
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