クールな御曹司にさらわれました







定時から三十分後、私は退勤を入力し、デスクを離れた。先週までの地獄が嘘のよう。
いや、でも理不尽でも忙しく仕事したのは、いい経験にはなったよなぁ。いびりでなければ、もう少し仕事のウェイトは増えてもいい。
って、私が海外に嫁入りさせられない前提ですけどね。

「タマ」

不意に声をかえられた。もう誰だかなんてわかってる。

「尊さん!」

会社を出て、メトロまで歩くわずかな道で背の高い男性と遭遇。尊さんだ。
まったく、忙しくて顔も見ないと思ってたら突然現れたよ、この人は。

「どうしたんですか?こんなところで」

「近くまで来ていたからな。仕事も一段落したし、タマを迎えにきた」

なんか、当たり前のように迎えとか言ってますけど、私、あなたの人質なんですが……覚えてます?
でも、なーんか私の中でも変化があるわけで。嫌じゃないというか、悪くないというか……くすぐったいことしないでほしいなぁ。

昼間の小森の言葉を微妙に思い出してしまう。
気がある?ないないない!!

「加茂さんが近くにいるんですか?」

「今日は電車だ」

「うえ、尊さんでも電車なんか乗るんですか?」

「たまにな、公共交通機関の方が速い場合も往々にしてある」

ただのセレブなんじゃなくて、合理主義者なんでしたー。
私は横に並んで歩き出す。
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