クールな御曹司にさらわれました
「ヤツも疲労が見えてきた。捕獲チャンスはある。次で左折させたいから、右寄りでプレッシャーをかけながら走れ。距離も少し詰めろ」

「は、はあ!」

尊さんは言うだけ言って、脇のさらに細い路地に飛び込んでいった。

距離を詰めるため、私は残された力を振り絞って、スピードをあげる。
右の壁ぎりぎりを走ると、ちらりと再び振り向いた父が、目標の工場の角を左折した。

その瞬間、私は父の上にひとつの影が降ってくるのが見えた。
あれって……。

駆け追いつくと、すでに父を路上に引き倒し、後ろ手に組み伏せている尊さんがいた。

「すご……」

どうやら、尊さんは工場の外階段に侵入し回り込み、二階部分から左折した父の上に飛び降りたらしい。
土地勘もないような場所で一瞬にしてそんな判断をしたところも怖いけど、そもそもどんな身体能力よ、この御曹司……。つくづく敵にしたくない……。

「お父さん!!なんで逃げたのよ!!」

私は息を切らしながらも引き倒された父の前に立ち、怒鳴った。

「あは、妙~。久し振り~。あれ?ちょっと太った?」

女子に太った?とは何事だ!!ってそうじゃない、そうじゃない。

「なんで逃げたのよっ!!」

「いやね、本能的な話?追われたら逃げたくなるでしょ?」

染みついてるんだな、この人。追いかけられたら逃げるって。
久し振りに会った父は、無精ひげこそ生えていたけれど、仕立ての良さそうなシャツにスラックス姿。栄養状態も良好そうだ。さすがに息も絶え絶えといった様子だけど。
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