クールな御曹司にさらわれました
涙が出そうだ。
ひどい、こんなの結局借金のカタに身売りと変わらないじゃない。

鼻をすすって、ふと顔をあげた。

待った。

私、今また流されそうになってない?長い物に巻かれそうになってない?

駄目だ!!
ここで尊さんの策通り婚約者になっちゃいけない。
私は私の人生を決めて歩む権利がある。それは、尊さんへの好意とか情とかとは別問題だ!!

「行かなきゃ……」

私は立ち上がり、クローゼットからジーンズとTシャツを取り出す。この前のパーカーも羽織ると、この家に来るとき持ってきた小ぶりのボストンバッグを引っ張り出した。そこに最低限の荷物をぽいぽい入れていく。

「……妙」

背後でドアが開いたことすら気づかず、私は突然声をかけられ、びくりと肩を震わせた。

振り向くと、そこには父・真中玄之丞がいた。

「お父さん……」

父は、現在レオマーケットグループの関連会社で社員をしているはず。どうして、平日午後にお屋敷にいるのだろう。確かにまだ母屋で御厄介になっているとは聞いていたけど、尊さんの居住スペースであるこちらの棟にはなかなかやってこないというのに……。

私の言葉にしないでいる疑問に、思うところがあったのか、父はへらりと笑い返す。

「なんか、久しぶりに働いたらくたびれちゃってさー。今日は、ハラ痛いって休んじゃった」

「お父さん……ホント駄目男」

「いつもは真面目にやってるよぉ?俺、ホント頑張ってるの!褒めて、妙~」
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