クールな御曹司にさらわれました





静岡駅近くのファミレスで私は朝を迎えた。眠い。目がしょぼしょぼする。
テーブルの上にはホットドリンクのマグがみっつ並んでいた。もう暑い時分だけれど、ファミレス内の冷房ですっかり冷えてしまった。長時間いられないようにしてるのかな。とにかく寒い。

どのみち、そろそろ始発が動く時刻だ。もう、行こう。

行くと言っても、行く先は決めていない。
尊さんのいないところ。手の届かないところ。そんなファジーな考えしか持っていない。
新しい土地で一から人生をやり直してみようか。父にも御曹司にも振り回されない私だけの人生を歩んでみようか。
誰かの都合で駒のように扱われる人生は嫌。疲れちゃった。
私には別な人生だってあるはず。あの馬鹿親父ですら、私の幸せを見つけろと言ってくれた。天国のお母さんだってそう望んでくれるに違いない。私の行動は……間違っていない。

始発の発車は五分後だ。

数瞬、考えて私は公衆電話から父に電話をかけることにした。起きているかもわからないけれど、羽前家の様子を知りたい。
コール二回で父本人が出た。

「妙か」

「お父さん!」

たった半日ぶりなのに、すでに随分会っていないような気持ちになった。
しかも相手はあの父。普段は顔を付き合わせたくない人だけど、今は懐かしく慕わしい。
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