クールな御曹司にさらわれました
私は尊さんから逃げたかった。このまま奥さんになるなんて無理だし、話し合っても無駄な気がして逃げた。
確かに怒りは感じていたけれど、復讐というこの気持ちは……少し異質な気がする。

私の尊さんへの感情ってなに?この憤りの正体はなに?
私は、尊さんに何を求めているの?

これ以上、考えても答えがでないだろう。なにより、行先も決めずにうろうろするのは危険だ。
新幹線の改札から在来線の改札内へ移動する。

やっぱり観光はやめよう。早くここからも離れよう。
北陸方面行きの特急が出ている。これに乗ってみようと新たに特急券を買うことにした。北陸方面も行ったことがない。

ホームへ到着すると、特急はすでに停車している。
えっと、何号車だっけ。まだ朝早いためか空いた電車のシートに、どさりと背中を預けた。出発まであと少し。

すると、反対側のホームに見知ったスーツの男性の姿が見えた。

「あ……」

思わず声が出た。聞こえるはずのないその声に、男性が振り返る。

一瞬、ふたりの間で時間が止まる。

尊さんは車窓ごしに私を見た。

たま、とその唇が動く。
瞬間、発車ベルが鳴り響いた。そして、私は立ち上がることもできずに尊さんを見つめる。
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