クールな御曹司にさらわれました
「あの、今日は運転手さんいらっしゃらないんですね」

指令通りコインパーキングの清算を済ませ、助手席に乗り込むと、尊さんが車を発進させる。

「加茂は今日休みだ。結構いい歳だからな。週休は大事だ」

「尊さん自ら運転なんですね」

「何か文句があるか?」

「いえ、文句はないですけど」

昨日拉致してきた人間とふたりきり。気まずいというか、不快というか。
今朝あったばかりだけど、サラさんがいてくれればまだ間が持つような気がする。

車で向かった先は清澄白河駅近くの私の自宅アパートだ。古い企業や工場の多い通りを一本奥の路地に入ると、築三十五年の木造アパートはある。

二階の角部屋のドアに鍵を突っ込む。尊さんは真顔で何を考えているかわからない。きっと、こんなアパートに来たこともないだろうし、人が住む場所とも思えないだろう。

1日半ぶりなのに懐かしい我が家に入った。靴を脱ぎ、電気をつける。

「父親が立ち寄った形跡はありそうか?」

尊さんは玄関ドアに背を預け、狭い1LDKを見渡す。まずは私に確認させるつもりのようだ。
そして、入室する気はなさそうだ。掃除はしてるから、お高いソックスが埃まみれにはならないと思うけど……いやいや別にあがってほしくないです。
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