クールな御曹司にさらわれました
見まわすまでもないけれど、一応、タンスや身の回りのものを確認し、私は首を振る。

「いえ、昨日私が朝出たままです。タバコの匂いもしないし、タンスの中に入れておいた光熱費の支払い金も持ちだされてません」

「おまえの父親は、支払いの金も持ち去るのか……」

「ええ、割と」

さらっと答えると尊さんが心底見下した声音で言う。

「世間的に家計費を持ち出す父親はクズだ。タマの感覚は少々おかしくなってるな」

簡単に拉致とか人質とか言うあなたといても感覚おかしくなりそうですけど。思ったことは角が立ちまくりそうなので言わないでおく。それに父がとんでもない男なのは今に始まったことでもない。

早速荷物をまとめようとすると、今頃になって部屋に上がり込んできた尊さんに制された。

「持ち出す荷物は最小限にしろ。当座、今日明日必要なものだ。あとは買い揃えてやる」

「え?なんでですか?いいですよ、人質生活……まあ、ご厄介になるんで、日用品くらいは自分のものを持って行きます」

「明らかにおまえの荷物が減っていたら、父親が立ち寄った時、妙に思うだろう。うちの会社の捜査網に引っかからないということは、本人も追われている自覚があるに違いない。おまえに何か動きがあれば、連絡を取ってくることはおろか、さらに遠くに逃げるかもしれない」
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