クールな御曹司にさらわれました
着付けを習った時にとったメモを出す。着物セットを開け、記憶をひっくり返す。
えーと、ネットにも着付けの動画があった気がする。見ながらやろう。

長襦袢に袖を通し、思い出しながら紐を結ぶ。えーと、中の細い帯みたいなのはどうしたらいいんだっけ。いつつけるんだっけ。

悩みながら、着ては脱ぎ、紐を締めてはあっちを出しこっちを引っ張り。帯はこんな時どうしたらいいんだっけ。お太鼓に結ぶんだっけ。えっと、それは私にできるんだっけ。
動画、動画。だめだ、全然わかんない。

四苦八苦で着た桃色の訪問着は、鏡の前に立つとどうにも決まらない。
うーん、何かがおかしい。でも、カッコ悪いってこと以外わからない。

すると、ドアをノックする音が聞こえた。

「真中様、加茂でございます。今日は真中様をお送りするよう尊様より仰せつかっております」

尊さんの運転手の加茂さんだ!

「玄関に車を回しますが、お時間はいかがしましょうか?」

「えーと、えーと……もう少し待ってもらえますか?」

答えにならない答えをドア越しに返すと、加茂さんは穏やかに答える。

「尊様のお仕事も押しているようですし、急ぎません。ごゆるりと」

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