クールな御曹司にさらわれました
「もしかして、お着物に慣れてないのかしら?」

お母さんが遠慮がちに聞いてきて、私は自分の身なりを思い出した。
うわあああ、はっずかしい!

「えっと……習ったんですけど……上手く着られなくて」

「佐久子さんがお着付けは手伝えるはずよ。呼んできましょうか」

「それが……」

私が言いよどんでいると、何か察した様子のお母さんがぱっと表情を明るくした。

「私でよければ手伝わせてもらえない?」

「いえ!悪いです!そんな」

「いいのよ、尊には黙っておけば。あの子、杓子定規で融通が利かないところがあるの」

おだやかに微笑むお母さんは、やはり、察している様子です。
私の窮状が尊さんによるものだということを。
遠慮したものの、押し込まれる形で部屋に入る。

「嬉しい。女の子に着付けしてあげるの夢だったのよ。私は尊ひとりしか授からなかったから」

お母さんはわくわくと私の着物を脱がしにかかる。最初からやり直しみたいだ。そうですよね……。

「よろしくお願いします。本当のこと言いますと、ものすごく助かります」

「最初のうちはわからないわよねぇ。何度も繰り返し着るうちにコツというか、しっくりくる感覚がわかるものなのよ」
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