クールな御曹司にさらわれました
「ありがとね。終わったんなら先あがんなよ」

「プリントアウトしてホチキス止めすんの、明日手伝うからね」

遠慮して言う私と、どこまでも気遣ってくれる小森。ああ、ありがたい。もつべきものは優しい友人。お互い仕事が片付いたら、飲みに行こうねぇ!

その時だ。バターンとけたたましくオフィスのドアが開いた。

ねえ、嘘でしょ?
夜23時のオフィス。入り口に立っていたのは羽前尊その人だった。

私はその信じられない光景に固まった。なんでいるんだろうと考える前に、似合わなさ過ぎて笑いがこみあげてきた。うちみたいな小さな会社に大企業の御曹司がいる……。不似合極まりない。

「やはり男と密会か」

尊さんは感情を差し挟まない声音で言った。瞳はいつも通り冷徹だ。
ん?ちょっと待った!密会ってなによ!!密会ってさあ!!

「あ、勘違いしないでください。俺、真中には心身ともにまったく反応しないただの同期ですから」

小森がすばやくパソコンの電源を落とし立ち上がった。
目の前にいるのが噂の御曹司であると気付き、即行面倒事に巻き込まれない方向に舵を取ったと思われます。
やっぱりこいつ、安定の事なかれ主義。頼りになるとか思うんじゃなかったぁ!!

「じゃ、真中がんばれ」

小森は誤解を解ききる前に、ひとり撤退していった。残された私の元へ尊さんがずんずん近づいてくる。

「今の男は恋人じゃないのか?」

「たーだーの同期です!!」

「信じていいのか?」

「信じてくださいっ!!っていうか、密会ならもっと楽しいところでやりますよ!どう見ても残業中でしょ?ねえ!!馬鹿じゃないですか!?」

謂れのない罪と、ここ数日の疲労で、私は怒りとも悲しみともつかない気持ちだった。尊さんに食ってかかっている時点で、ちょっと極限状態だ。
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