行雲流水 花に嵐
「片桐の旦那がそんなに褒めるような女子が揃ってんのかい」

 要蔵も興味をそそられたようだ。
 ちちち、と片桐は指を振った。

「駄目よ、親分。親分は色町の表も知ってるじゃない。それに比べりゃ落ちるでしょうよ。でもこの船宿の三階しか知らないっていう神秘性が、普通と違う雰囲気を醸し出してるかも。心を許すと一気に幼くなって可愛いのよぉ」

「お前がそんなに女子に興味を示すとはなぁ」

 少し驚いたように、宗十郎が言う。
 てっきり本気で女子に興味はないものだと思っていた。

「ちょっと、何言ってるのよ失礼ね。あたしを何だと思ってるわけ?」

 宗十郎は口を噤んだ。
 素直に答えたら鉄拳の類が飛んでくるだろう。

「ま、いいわ。とにかくその玉乃ちゃんの言うところでは、坊は三階で遊女たちといるそうなの。ねぇ宗ちゃん。坊ってちゃんと可愛がられてたの?」

「何だよ」

「だってねぇ、連れてこられた初めこそ怯えてたらしいけど、今じゃ遊女に懐いてるそうよ? 半月も経つのにさぁ、大して逃げ出そうともしないみたい。まぁあそこの遊女皆がそんな感じなんだけど。亀松も優しいって言うし」

 宗十郎は顎を撫でた。
 亀松を見たわけではないし、色町の亀屋しか知らないので、あのあくどい見世の元締めが、小さい子供に好かれるような人間とは思えない。

 が、実際亀松と接した片桐が言うのだ。
 こちらの見世からは想像できないだけなのだろう。

「多分、亀松は飴の役をしてるのよ。鞭の役は勝次辺りに任せてね。一番上が優しいほうが、都合がいいだろうしね。いざというときにだけ怒ってみせたほうが、効果はあるでしょう。ご面相だって、とてもそんな悪党には見えないもの。いかにもな竹ちゃんとか勝次とかが子供を攫おうとしたところに、本来の親玉である亀松が現れれば、拐かしだって容易にできるんじゃないかしら。こっちから何をしなくても、子供は亀松に靡くわよ」
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